津奈木町つなぎ美術館 楠本智郎学芸員
アートの可能性を町民と追求

写真


 平成25年度地域創造大賞(総務大臣賞)をこのほど受賞した津奈木町の「つなぎ美術館」。県内では熊本市現代美術館、熊本県立劇場に続くもので、地域独自に進めてきた社会教育学習の成果とも言える。それを支えてきたのはまさに人で、長年の活動が実を結ぶ結果となった。




〈町がアートに目覚めたのは、30年前。町医者で中央の学会に出入りしていた当時の町長が、都市部と自分のふるさととの芸術に対する格差を感じたことに始まる。昭和59年に『美術品取得基金』を創設し緑と彫刻のある町づくり≠合い言葉として著名な作家の作品を収集。その集大成が美術館で、平成13年に開館している〉
 私は開館と同時に学芸員として採用されました。著名な作家の作品展を開催すると町外から多くの美術ファンが押し寄せてくる。でも町立であるからには町民の利用を考える必要がありました。町の至る所に野外彫刻の裸像を展示してありますが、当時は「恥ずかしゅ〜て、顔ば上げて通られん」と批判される方もいたほどです。
〈「アートを町民に理解してもらおう」。楠本学芸員は焦る気持ちを抑えながらも町民の日常と美術の距離を縮めるための方策を企てる。これに呼応し町では20年度から『住民参画型現代美術プロジェクト』(24年度に住民参画型アートプロジェクトと改称)に着手。毎年、住民で組織する実行委を立ち上げ、著名なアーティストを招聘し、テーマに沿ったプロジェクトに取り組んできた〉
 実行委のルールは、出来なさそうなことでも「出来ない」と言わないこと。出来るように努力する。近づけることです。メンバーも毎年入れ替えますが、大事なことは楽しいアートイベントにすることですか。ただワイワイやって終わりではダメで、クオリティーの高さが必要です。そのためにアーティストが重要になる。質が高いとメディアも関心を寄せる。そうすると町民が喜ぶ。同時に自分たちの資源に気づき、誇りが生まれるんです。
〈敢えて住民に参加を促し、アーティストを絡めることでアートにつなげる。そこにはプロセスを大切にする想いが伝わってくる。24年度からは 3カ年計画で、廃校となった小学校を舞台にした『赤崎水曜日郵便局』に取り組んでいる。既に映画監督など4人の芸術家らが活躍しており、企画の面白さとネットワークの広がりに注目が集まっている〉
 耐震基準の関係上、中に入れない施設ですが、実に景観が良いんです。そこにポストとシンボルとなるオブジェを造りました。現在までに全国の3〜90歳までの人達から1000通ほどの手紙が寄せられています。最終的には物語性を持たせたアートプロジェクトになるでしょう。アーティストには、常に地域にとって何が重要かを再編集して提供して頂いています。いわば橋渡し役なんです。そんな中でアートとふれあう可能性を町民と共に追求していく。自分一人では不可能ですから。

【メモ】
地域創造大賞(総務大臣賞) 地域の創造的で文化的な表現活動のための環境づくりに功績の合った公立文化施設を顕彰。施設のさらなる活性化と美しく心豊かなふるさとづくりを推進する狙い。(財)地域創造が平成16年度に創設。今年で10回目で、全国でつなぎ美術館を含む7施設が受賞した。 
2014.02.03掲載

戻る

  All right reserved for west japan construction news Co.,Ltd    renewed on 2004/4/8 Y.アクセス昨日 T.アクセス本日