荒尾市下水道課  宮本 桂介 課長補佐兼維持係長
現場で生まれた「シンプルで管理しやすい」新型機



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 「省スペース・省エネ・低コスト」と三拍子がそろった『ベルト型ろ過濃縮機』。下水処理場の現場に勤務していた宮本桂介氏が独自に考案したこの濃縮機が現在、全国各地の下水処理場に広がりつつある。




〈平成6年、荒尾市大島町の浄水センターで維持管理に携わっていた宮本氏は、処理量増加に伴って性能が悪化する重力濃縮槽の対処法を思い悩んでいた。当初、汚泥濃縮機の新規導入を検討していたが、当時の機械は圧力で水と汚泥を分離する「浮上濃縮機」と遠心力で分離する「遠心濃縮機」のみ。いずれも大型で高額であることやメンテ費にコストがかかるため、厳しい財政状況の中、機械の導入に二の足を踏んでいた〉
 当時の機械は手間も時間もかかり、維持管理も難しかった。「もっとシンプルで、現場で管理しやすいものができないか」と仕事の合間に新たな濃縮方法を考えた。ろ過方式にすると水と固形物(汚泥)が簡単に分離するという発想から、実用化に向けて取り組んだ。
〈センターで働く傍ら、開発者としての生活が始まった。ゼロからの出発で、開発費用や実験設備もなかったが、何とか市の修繕費から費用を工面。自ら町工場に出向き、ろ過素材を探し回った〉
 知人や工場に素材を尋ね歩き、様々な素材の中から金属ステンレスベルトを選び出した。さっそく「手回し実験機」を製作。汚泥に高分子凝集剤を添加し、ベルト上に投入してろ過実験すると、思っていたとおりに汚泥中の水分が分離した。ただ、一定の濃縮度を保ち、安定して利用できなければ意味がない。ベルトの密度や凝集剤の分量を換えては実験を繰り返した。
〈試行錯誤の結果、平成7年にベルト斤1bの実験機1を作り、さらに改良を重ね、9年に実験機2を製作。自動運転ができるよう機能を上げ、10年から浄水センターで実際に稼動した。3カ年に渡り対象汚泥を濃縮汚泥濃度約5%に濃縮する事ができた〉
 予想以上の効果だった。従来機よりもシンプルな構造であるため管理が容易。しかも、汚泥性状の影響を受けにくく、短時間で高濃度濃縮が可能だと実感した。
〈当初、センター内での使用しか考えていなかったが、他の下水処理施設で苦労している人たちの手助けになればと実用化を目指した。しかし、実用化には各種データが必要で、独自にこれら収集分析するには限界があった。そこで怏コ水道新技術推進機構に協力をあおぎ、13年から4年間で共同で研究を実施。新技術として評価を得た。同じく潟Nボタと製品化に向けて共同研究を開始し、15年9月に実用機第1号をセンターに導入。同年12月に「汚泥の濃縮方法および装置」で特許を取得しており、特許料は市の財政に大きく貢献しているという〉
 簡単で手間がかからない機械がほしいという想いから、実用機の開発に至った。機械メーカーでも開発研究機関でもない、実際に現場で働く職員だからこそ見えたこともあったと思う。
 現在、59カ所の下水処理施設でこの機械を利用してもらっており、導入を検討している自治体もある。この機械が普及し、当時の私たちと同じような想いをしている施設職員の役に立てれば嬉しい。

【メモ】
ベルト型ろ過濃縮機 走行するベルト上で凝集汚泥をろ過濃縮するもの。凝集装置で汚泥を凝集し、走行するベルト上に投入。凝集汚泥は排出部へ移送するる間にベルトでろ過され、排出部で高濃度の濃縮汚泥となる。外圧を加えないためベルト目詰まりも少なく、安定した濃縮を継続できる。
2008.11.06掲載

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