熊本県土木部建築住宅局
局長 小路永守氏
「遠隔臨場」と「BIM設計」スタート
DXを推進、魅力的で持続可能な産業へ
熊本県は、公共建築物の営繕工事において、業務の効率化・迅速化による品質確保やコスト縮減等を図るため、2024年度から「遠隔臨場」と「BIM設計」に取り組んでいる。「DXを推進することで、週休二日制や働き方改革に繋げ、建設産業が若い世代や多様な人材から選ばれる魅力的で持続可能な産業にしたい」と語る県土木部建築住宅局の小路永守局長に話を聞いた。
――県でも「遠隔臨場」と「BIM設計」がスタートしました
現在、県では、働き方改革の推進のため、全庁をあげてDXに取り組んでいる。営繕関係でも、書類のペーパーレス化をはじめ、業務の効率化という視点で、遠隔臨場とBIM設計に取り組み始めたところ。
このうち、遠隔臨場については、昨年7月、第一高校長寿命化改修(第一期)工事(竹内工務店・坂口建設JV施工)での、足場撤去前の高所施工箇所の完了確認で初めて実施した。その後、済々黌高校長寿命化改修(第一期)工事現場(岩永組・武末建設JV施工)で、図書館の屋上防水改修工事の完了確認を行った。
BIM設計については、松橋西支援学校長寿命化改修設計(ライト設計)と、八代高校長寿命化改修設計他合併(セルアーキテクト)で、受注者からの提案を採用するかたちで取り組んでいる。
――実施にあたっての準備は
遠隔臨場を実施するにあたり、建築住宅局では「建設現場の遠隔臨場に関する試行要領」を昨年4月に策定した。同時に「情報システム費実施方針」を定め、県がシステム使用料やモバイル端末・ウェアラブルカメラのリース料、通信費などの費用を負担することにした。全ての工事を対象とする受注者希望型としているが、仮に実施しなかった場合でも、成績評定における減点等の不利益を被ることはない。
BIM設計については、実施要領等は整備中だが、ライセンス料と保守料を県が負担している。
――それぞれのメリットを教えてください
遠隔臨場は、受発注者相互の業務効率化を図ることが一番の目的だ。検査日程の協議や検査のための移動時間の削減・工事中断等による工程への影響を減らすことができる。このことは、週休二日制の実施や現場の働き方改革、人手不足の解消にも効果があると考えている。
BIM設計に関しては、工事完了後の建物のイメージがしやすくなり、建築技術者ではない施設管理者や利用者に対しても、設計内容が理解でき、大変わかりやすいという感想を得た。市町村では、建築技術職員が在職していない自治体もあり、BIMの普及によって、図面に不慣れな発注者であっても、設計や工事がスムーズにいくことが期待される。
――実施した業者の反応はいかがですか
遠隔臨場については、現場に発注者がいない体制であったが、協力いただいた施工者側からもネガティブな意見はあがっていない。
BIM設計についても、発注者側との意思疎通が円滑にいくことで、良い評価だった。
――見えてきた課題などありますか
真夏に実施した遠隔臨場では、モバイル端末が熱くなり、冷却対策が必要であることがわかった。また、山間地などは電波環境によっては通信が中断することも予想されるが、既に国内でも衛星通信サービスがスタートしており、大きな期待を寄せている。
BIM設計では、複数のソフトがあり、それぞれの互換性は弱い。ソフト導入など初期設定・環境整備の費用や設計技術の習得・作業スキルの更なる向上が必要になる。
――工事受注者への設計BIMデータの提供について
松橋西支援学校と八代高校の長寿命化改修工事については、新年度から順次発注していく予定だが、受注者へのBIMデータの提供を考えている。
設計者が提供する一般的なCAD図面を基に、工事受注者が作成する施工図までの流れが迅速になり、業務の効率化が図られる。更に、図面の寸法情報だけでなく、部材の情報までが伝達されるため、施工期間の短縮等も図られると見込んでいる。
――設計・施工業者へメッセージを
今回の遠隔臨場とBIM設計は、それぞれ受注者側からの提案や希望を受けて取り組んだもので、業者側の期待も大きいと考えている。
遠隔臨場については、国でも増加しており、県においても活用の場を増やしていくつもりだ。現在は、「受注者希望型」となっているため、受注者への浸透も図っていきたい。
BIM設計は、技術を習得することで、県内のみならず九州、全国の建築物の設計に携われる機会を得られると思うので、是非ともチャレンジしていただきたい。
このほか、現場確認や施設の保全面で、ドローンの活用も進めたい。
いずれにせよ、設計・施工業者の方々からの意見や要望なども取り入れながら、受発注者間相互にメリットがあるよう、作業の効率化や生産性の向上を進めていくつもりだ。導入初期は負担となることもあると思うが、将来にわたる県内建設産業の発展のため、業界の方々と一緒に取り組んでいきたい。 |