建設資材を考える(生コンクリート) 三井宜之熊本大学名誉教授
品質管理は工程・過程が大事
実は非常に繊細なコンクリート「そこが魅力かもしれない」

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 建設資材の中でも絶対に欠かすことが出来ない生コンクリート。技術者ならばその知識が浅い深いに関わらず、どうしても避けては通れない。ただ何気なく使う生コンクリートも供給側には高いハードルがあることをどれだけの人が知っているだろうか。インフラ整備の重責を担う部材なのにだ。専門家の話を聞いてみた。





 熊本県生コンクリート品質管理監査会議で議長を務める三井宜之熊本大学名誉教授は元々、鉄骨が専門で途中からコンクリートにシフトしたという。大学で教鞭を執った約40年間のうち鉄骨とコンクリートが半分ずつ。今も様々な業界で両方を跨いでいる異色の経歴を持つ。

――生コンクリートの歴史って案外最近のものなんですね
 日本で生コンクリート(レディミクスコンクリート)工場が誕生したのは昭和24年、住友セメントが東京コンクリート工業を設立したのが始まりです。それ以前は現場にセメント、砂、砂利を搬入し、手練りで混ぜ、水を投入して練り上げるのが一般的でした。その後、小型ミキサーも出てきましたが。昭和30年代より全国各地に生コン工場が配置されており、私が学生の頃(昭和30年代末)にボツボツ出てきたのかな。高度成長期で生コン需要が高まる中、手練りや小型ミキサーでは間に合いませんし。

――コンクリートを研究する中でどんなことをされたのですか
 最初に取り組んだのが、コンクリートに細い炭素繊維を混ぜて使う繊維補強コンクリートです。既存のものは色々な先生が長い年月をかけてやってたので新しい分野に挑戦しました。当時、合成繊維とか強度の高い繊維がいっぱい出ていましたが、新しい素材としての炭素繊維に着目し、コンクリートの柱に巻いたりして耐震補強をしたものです。
 今でこそ柱に巻いて補強したりするのは一般的です。私たちが最初にやった頃は「何してるの。そんなの巻いて」って笑われていました。そんな折、阪神大震災が起き強度が証明できたんです。震災後は、応急的にたくさんの炭素繊維を巻いたりして。その後、ある研究会で成果を発表したら神戸大学の先生から「たいしたもんだ。地震を予告してたんじゃないの」とか言われましたけど。炭素繊維は強度が出るだけではなく、ひび割れが少ないんです。地震の多い日本での構造物の材料にはとても適しています。

――新素材を使ったコンクリート構造物の第一人者となったわけですね
 いやそうとは言えませんけど、先駆けだとは思っています。と言いますのも三菱化学が繊維とコンクリートを組み合わせて、一般的な土木・建築材料に使うということを狙っていたんです。ちょうどそこに教え子が何人かいて「じゃー一緒に共同研究をやろうよ」ということになって。そこで製品化しましたし、事業部門も立ち上がりました。

――コンクリートの面白さって何でしょう
 色々なものを造ることができるということでしょうね。変幻自在なところがある。さらに自分たちで材料やコンクリート自体を造ることからスタートできる。色々な材料を混ぜ合わせながらも独自な要素を持ち合わせている。鉄なんか自分では造れませんし。雑な材料に見えるけど実は非常に繊細なんです。そこが魅力かも知れない。

――一般の人たちは中々そこのところが分からないと思いますが
 傍から見ると、何か知らないけどセメントと水と砂・砂利を混ぜ合わせてガチャガチャやれば出来ると。確かに出来るけどちゃんとしたものを造るにはそれなりの緻密なやり方があるんですね。特に水。砂の表面に水がどの程度付いているかで案外違うんです。砂といっても小さい粉みたいな微粒分子が混ざっていて、そういうのでも品質が変わる。私もコンクリートに入ったばかりの時は「こういうのが影響するんだ」と驚いたものです。

――コンクリートは取り扱いが意外と難しいんですね
 最近のセメントは、粉末度が非常に良くなっていて、強度も出やすいんですが、それが逆に乾燥収縮によるヒビ割れを引き起こします。ヒビ割れについては、コンクリートを始めてから強いギャップを感じています。鉄骨にヒビが入ったら、そりゃー大きな社会問題ですよ。鉄鋼メーカーも慌ててなんとか原因を追究するでしょう。コンクリートは当たり前のような雰囲気がある。でもそれはおかしい。出来るだけヒビ割れのないコンクリートを造るよう努力するべきです。漏水とかで耐久性がなくなる大きな問題なんですから。

――将来的にコンクリートはどのような位置づけになるのでしょう
 やっぱり絶対なくならない土木・建築資材ですし、なくなったら困る材料ですね。ただどうしてもコンクリートの場合は手間がかかる。型枠職人さんの問題(人手不足)も出てくる。型枠を造って、コンクリートを流し込み、固まって強度が出るから工期がかかってしまう。鉄骨単体でも強度的には問題はないんです。でも耐火性やサビの問題がある。鉄は火災とかの場合、1000℃になると常温の10分の1位の強度しかありません。そうなると建物の自重で曲がってしまう。それが一番の弱点ですね。そこでコンクリートとのマッチングでうまくカバーできるんです。

――これまで品質管理監査会議で議長として活躍されていますが
 会議の大きな目的というのは、実はISOの考え方なんですね。出荷する品質が良ければそれで良いんじゃなくて。造る工程とか過程とかが適正でなくてはいけない。当初はそれが中々定着しなかった。今は随分と理解が進んで良くなりました。その結果、製品の安定供給が出来るようになった。技術者の質が向上していることも要因の一つですが。そうした取り組みが生コン業界の社会的地位を引き上げることだと思っています。「ちょっと目を離したら、デタラメな物を持ってくる」と思われないためには「ちゃんとした製造システムを持っているんですよ」と言わなきゃダメなんです。



三井宜之熊本大学名誉教授プロフィール
みつい・よしゆき 昭和39年大阪大学工学部構築工学科卒。工学博士取得(大阪大学)後、49年より熊本大学工学部建築学科助教授、58年より教授。平成18年退職後は熊本大学名誉教授。平成8年より熊本県生コンクリート品質監査会議議長。


【全国統一品質管理監査制度って?】
 産・官・学からなる全国生コンクリート品質管理監査会議が1995年に発足。その後、都道府県でも地区会議が設立され、97年からは全国会議が策定した統一の監査基準、チェックリストにより生コンクリート工場の立入検査を実施した。2000年には承認した工場に対して全国共通の識別標識である○適マークを交付し制度を確立している。
 JIS審査とは別に、毎年度、工場の品質管理状況を中立性・公正性・透明性により監査。インフラ整備の基幹的材料である生コンクリートの品質の維持・信頼性の確保につなげている。
 熊本県内でも毎年、年度当初に国、県の発注機関をはじめ学識者、生産者団体などが委員となって構成する会議を開催しており、会議方針や査察の状況などを審議し、合意形成を図っている。年間スケジュールに基づき各工場の査察を行い、最終的に合否の判定を下す。
2015.7.6掲載

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