緑の区間完成までのフローC
熊本河川国道事務所
調査第一課課長
牟田 弘幸さん
激特事業で手法生かす
上下流に比べて治水安全度が低かった緑の区間は、「本来は早急に治水効果を高めないといけない区間だった」と事業を担当する国土交通省熊本河川国道事務所の牟田調査第一課長は話す。治水対策≠求められつつも、一方で緑の象徴を守る≠ニいう大きな使命を果たすには時間が必要だった。約30年もの歳月を費やして完成した緑の区間の整備を通して、見えてくる今後の河川整備や利活用について話を聞いた。
――整備を振り返って
平成9年の河川法改正までは、環境に配慮するという視点が無く、どこの河川でも「治水メーン」の整備が進められていた。昭和60年頃に地元から景観を残したいという意見が上がっていたが、当時は環境に配慮した河川整備の前例が無いため、現実的に動き出したのは河川法が変わってから。結果的に多くの時間を費やしたが、整備を通して地域住民との合意形成の取り方など多くのことを学ぶことができた。
記憶に新しい24年7月の洪水時には、両岸でパラペットの整備だけは終えていた。天端30aまで迫ったが溢れることはなく、なんとか治水整備も間に合って良かったと思っている。
――緑の区間の整備手法は今後他の事業区間でも生かせますか
九州北部豪雨災害後に指定を受けた白川激甚災害対策特別緊急事業(明午橋〜みらい大橋)の整備に、緑の区間で培った視点を取り入れている。事業は、直轄区間(明午橋〜小磧橋約3・6`)と県工事区間(小磧橋〜みらい大橋約9・4`)に分かれている。国と県の整備がちぐはぐにならないよう、県やその区間を担当する設計・施工業者、熊本大の小林教授、星野準教授を交えて「白川激特事業景観検討委員会」を25年1月に立ち上げた。意見交換会をこれまでに20回以上開催し、模型・パース等による討論や、実際に現場でパラペットの試験施工を実施している。官民学が一体となって意見交換し、事業全体をマネジメントしている。5カ年という短い事業期間のため、緑の区間のように細かい部分までは検討できないが、少しでも景観や利活用についても気を遣いながら整備を進めていければと考えている。
また、白川明午橋の架け替え事業が28年度に完成するが、大甲橋のように右岸・左岸側の橋詰めのデザインをどうするのかを決める必要がある。白川市街部景観・親水検討会は「白川市街部景観・利活用検討会」に名称を変えて組織を残しており、今後検討会の中で詰めていきたい。
――これからの川と人の関わり方は
23年に敷地占用許可準則が改正され、民間でも河川空間の利用が出来るようになった。広島や京都、大阪の河川で民間事業者によって水辺にオープンカフェなどが進出し、全国的に河川の利用形態が変わってきている。
白川でも、水辺の新しい活用の可能性を創造するための社会実験として、「ミズベリング白川74」というイベントの実行委員会を国土交通省や沿川自治体、熊本市、熊本大などで組織。イベントを4月25・26日と5月16・17日に開いた。オープンカフェやマルシェ、水辺の演奏会など、白川の一つの活用例を示すことができた。ひとまずイベントは終了したが、今後本格的に運用できるかは、アンケート調査結果を基に課題を整理し分析していく必要がある。
緑の区間と市街部は、近いけど遠い印象だったが、整備後は人と川の距離が近くなったと感じる。散策したり、水辺で休憩する方も多い。近くの住人と話して驚いたのは、「今まで白川に来たことがなかった」「水際まで近づいたのは初めて」といった感想が多かったこと。川と街の境目があると川に近づかないが、緑の区間の整備は、その境界線を無くすという大きな意味を持っているのだろう。(おわり) |