緑の区間完成までのフローB
伊勢造園建設(株)
池端 潔氏
クスノキ立曳き〜伝統技術で立曳きを〜


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 緑の区間左岸側では、川幅を15〜20b広げるため、平成18年度からクスノキやケヤキ、エノキ、モミジなど計130本に及ぶ大がかりな樹木移植工事が始まった。特に緑の区間を象徴する樹齢約100年の2本のクスノキは、陸側に10〜18b移動させるために、樹木に負担がかからない立曳き工法で移植する方針が決まった。当時現場代理人として工事にあたった若き樹木医・池端潔氏(伊勢造園建設)にプロジェクトの全貌を聞いた。



――移植工法の選定は
 2本のクスノキは重さがそれぞれ70dと100dもあるため、クレーンで吊り上げる移植方法は、木を傾けてしまい、幹と根鉢に全ての負荷がかってしまう。幹周りは2本とも3bを超えるため、大型重機でも対応が難しい。立曳き工法は、他工法よりも時間がかかるが、樹木の下の面で支えながら立ったまま移植するため、負担は軽くなる。これらの理由から立曳きが選ばれ、当初は鉄のレールを敷いて建物などを動かす曳屋に移動してもらう計画だった。
 クスノキ2本を含む19本の樹木移植工事を受注した平成23年6月に、立曳工法を熟知する東京の富士植木や造園業者、学識者、国土交通省で組織する検討委員会を立ち上げ、移植工法を再検討した。立曳きの中でも江戸時代から伝わる伝統技術は、木材の道具を利用した人力で移植するエコな工法で、全工程を造園業者でやっていた。伝統を継承していこうという大きな意味合いも含めて、「伝統技術立曳工法」での移植が決まった。移設の際に使用する道具も、分解できて狭い現場にも持ち運べるという利点があった。

――様々な道具が必要だったそうですが
 立曳きには、「荷台」と「カグラサン」と呼ばれる木材を使った道具が必要となるため、検討会が始まってすぐに材料を探し始めた。カグラサンは数人が手で押しながらロープを巻き取って樹木を移設する道具で、固定された中心の棒に細長い横木を十字に通して作る。
 荷台は根鉢を支える道具。移動させる地面の上には「ミチイタ」を敷いてその上に根鉢を移動させる円柱の「コロ」を設置。コロの上には、丸太の両端を削った「コシシタ」2本と「カンザシ」2本を井桁状に組み込む。井桁の高さが均等になるように「マクラ」で調整し「キャンバー」で根鉢の四隅を固定する。コシシタとカンザシは、長さ約6bのケヤキの木材が必要だったが、3カ月経っても1本しか見つからず、蘇陽の山師にお願いしてようやく見つけだしてもらった。

――工程はどのように進めたのですか
 移植する5年前から根回し工事が行われていたため、根の周りの掘取り作業はスムーズだった。根巻き工程を経て、荷台を慎重に設置。根鉢に潜って、樹木の直根と支持根を切り離す「ヘソ抜き」作業に入る。この作業は、腐朽によりヘソの土が崩落する危険が伴うため安全面で一番気を遣うが、幸い2本とも問題なく進めることができた。
 70dのクスノキ移設の際は、立曳きイベントを開き、白川小学校の児童らに実際にカグラサンでロープを巻き取る体験をしてもらった。全工程は10日ほどで、工法の修得のため、地元の造園業者と一緒になって伝統工法の修得に努めた。立曳きから5カ月後に発生した九州北部豪雨では、幹上40aまで浸かるトラブルに見舞われたが、何とか根付いてくれた。

――取り組みを通して得たものは
 3年経った今でも思い返すと大変貴重な経験だった。立曳きを伝統工法で実施した反響は大きく、依頼があり見積もりまで至ったケースも。また、第28回都市公園コンクールでは、材料・工法・施設部門で富士植木とともに大臣賞を受賞することができた。今後立曳の計画があれば、経験を役立てたい。
2015.5.21掲載

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