緑の区間完成までのフローA
熊本大学工学部社会環境工学科
星野裕司准教授
境界をぼかし、空間つくる


写真

 緑の区間は平成16年度から、「施設計画検討WG」と「埴栽検討WG」に分かれて、計画原案の具体的な検討に入った。施設計画検討WGに参加した熊本大学工学部社会環境工学科の星野裕司准教授は、学生とともに詳細なデザインを詰めていった。街と川との境界線をなくすことで、街から川に人をつないでいく―。景観デザインの核心に迫った。




――施設計画検討WGはどのような方針で進めたのでしょうか
 緑の区間は、街と川がうまく連携していない場所だった。街を歩いている人が、自然と川へ入ってきて散策できるようなスムーズな動線を重要視した。施設WGでは「境界をぼかす」「空間をつくる」ことに取り組んだ。境界をぼかすとは、街と川の境目をわからなくするということ。
 例えばパラペットは、川と街を仕切る境界のようなものだが、それにデザイン的な工夫を施した。笠石を上に置き、コンクリートを木目のテクスチャーにするなど、親しみやすいデザインを与えた。腰掛けるベンチとしても利用でき、川と街を繋ぐ役割も果たしている。左岸上流部は下流部に比べて高さが確保されていたため、パラペットが地面に埋め込まれている。場所によっては、街側にせり出したり、川側にセットバックしたりと、パラペットのラインを揺らがせることで境界をぼかしている。

――空間をつくるとは
 緑の区間600bが一律の空間だと退屈だが、拠点となる場所にスペースをつくって全体にメリハリを与えている。例えば白川小学校の正門前は、木を避けるようにパラペットを雁行させることで、ポケットスペースが生まれた。児童らが学校から横断歩道を渡ってスペースに集い、スロープや階段で意識せずにパラペットを乗り越えて川沿いを散策してくれたら良いなと思っている。

――実際はどのようにしてデザインを詰めたのでしょうか
 図面やCGだと立体感が分かりにくいので、学生と一緒に全体の模型を製作した。最初は500分の1のスケールだったが、このスケールだと樹木は抽象的になる。当初は、丸いボールに緑をつけて並べていたが、植物・環境分野の今江正知氏から「木は丸じゃない」と怒られた。考えを改めて、100分の1のスケールで作り直した。樹木は霞草のドライフラワーを束ねた物に変え、ラベルを付けて写真と参照できるようにした。模型全体で7bぐらいになり出来上がるまで数年かかった。
 詳細な検討が必要となる大甲橋の両橋詰めや石垣などは30分の1のスケールで拡大し、パラペットについてはテクスチャーをどうするかを詰めるために一部を原寸大で再現した。

――WGは着工後も続けていたと聞きます。施工業者や埴栽WGとの連携はどうでしたか
 受注業者が決まったら必ずWGに顔を出しもらうようにしていた。議論の内容やデザインの主旨を理解して頂き、現場で問題点があれば相談しながら解決していった。埴栽WGとは、合同WGで意見を言い合える空気になるまでに時間がかかった。お互いの分野に関して意見を出し合うことが出来るようになったのは良かった。結果的に丁寧な仕上がりにつながったと思っている。

――白川はまだ未整備区間も残されています。緑の区間を通して、今後の河川整備に求めることは
 平成24年の白川7・12水害のように、今後予測できない災害が必ず起こると思っている。普段から川に触れ合っているかで、災害時の対応に差が出る。いくら堤防を高くしたり防潮堤を造っても今以上に川と触れ合わないと、防災意識の涵養にはつながらない。環境やアメニティーに配慮することも大切だが、人と川との距離を近づけるような河川整備が必要となるだろう。
2015.5.18掲載

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