緑の区間完成までのフロー@
熊本大学工学部社会環境工学科
小林一郎教授
街と川を繋ぐ工夫を


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 白川の大甲橋―明午橋区間600b(緑の区間)の河川整備が完成し、4月25日に一般開放された。同区間は、治水能力を高めるための築堤や拡幅整備だけでなく、長い期間をかけて景観や樹木に配慮した環境整備にも取り組み、「森の都熊本」を象徴する新たな河川空間へと蘇った。本紙では、整備に込められた関係者の思いを連載インタビュー(全4回)で紹介する。1回目は、景観≠ノ関わった熊本大学工学部社会環境工学科の小林一郎教授。平成14年に国土交通省が設置した白川市街部・親水検討会の座長を務め、長年にわたって緑の区間の景観整備に助言をしてきた一人だ。紆余曲折を経て完成に至る経緯を聞いた。



――景観整備に携わったきっかけは
 緑の区間は大甲橋の上から熊本城や立田山が見える熊本の緑の拠点として位置づけられている。河川改修をめぐっては、昭和60年頃に地元住民から「緑の拠点を無くすのか」という声が上がり、反対運動が起こって改修工事がストップしていた。平成9年に河川法が改正され、景観を含めた河川環境に配慮した整備計画が明確化される中で、国土交通省が設置した検討会に座長として呼ばれた。単に見た目を良くするのではなく、どれだけ心地よい空間が創れるかを考えるために、今一度立ち止まってしきり直す機会だった。

――検討会はどのくらいの期間を要したのですか
 国交省の計画では、元々半年で終わる予定だったが、「移植する樹木の一本一本の埴栽計画が示されていない」と委員の一人が待ったをかけた。私自身も、今までの景観が壊されかねないと当初の計画に疑問を抱き、時間をかけてデザインし直したいとお願いした。検討会は結果的に1年以上かかり、結論として「樹木の移植」「石積み護岸」「散策路など親水空間」の3点に配慮した基本的な整備方針を定めた。
 樹木移植の具体的な計画については、熊本県造園建設業協会を交えた埴栽検討WGで、護岸や階段などの土木施設の細かい段取りは、熊大工学部社会環境工学科の星野裕司准教授を中心に施設計画検討WGで詰めていくことにした。着工後もWGで決まった具体的な事項を年に1回チェックするという工程を10年間繰り返してきた。

――樹木がうっそうと茂り暗いイメージから、明るく立ち寄りやすい空間に変わったという印象を受けます。全体を見てどう変わりましたか
 外から見ると緑豊かだが、中に入ると明るい。防犯の面も考えて死角ができないように樹木が配置されている。その他、パラペットや石積み護岸、クスノキの立曳きなど全ての面できめ細かく配慮されており、評価したい点は多々ある。河川整備は今まで、街と川の境界線を切って終わりだったが、緑の区間では対岸から見ると水際まで降りたいと思わせるような、街と川を繋ぐ工夫が施されている。ここまで丁寧に仕上げた例は、全国的に見ても極めて珍しいケースだと思っており、徹底的に議論につき合ってもらった国交省に感謝したい。

――緑の区間の整備が持つ意味とは
 大甲橋から緑の区間と立田山を望む風景は古くからある熊本の代表景で、その風景が壊されずに守られただけでなく、新しいシンボルとして生まれ変わったことに大きな意味がある。パリではセーヌ川を交通の手段として利用し、市民が川沿いに集って時間をつぶしたりと、川が一番の表通りになっている。日本の川は一般的に裏通りという印象だが、今後は表通りに近づけていく必要がある。川を散策するだけでなく、水や緑に親しむイベントが生まれてくるかが今後の試金石となるだろう。
2015.5.14掲載

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