本物の技≠磨いて生き残れ 資格を持った技能者が即戦力
熊本市建設技術専門学院校長  笹原博次氏


笹原博次氏

 2007年問題や少子高齢化による後継者不足など、建設専門分野における技術者・技能者不足が年々深刻化している。このような状況にある中、働きながら学び、全国でも数多くの訓練科目を有している職業訓練法人熊本市職業訓練協会・熊本市建設技術専門学院(県知事認定職業能力開発校)に、今年度新たに33人の訓練生が入校した。同学院は40年の歴史を誇り、これまで県内各建設専門工事業団体等の協力のもと、多くの技能者を育成してきた。さらに、今年度から「鉄筋コンクリート施工科」と「屋根施工科」を新設し、より一層、技能者育成に力を注いでいる。同学院の校長を務める笹原博次氏に、これからの技能者に求められるもの、業界が抱える問題点やその対策などについて聞いてみた。


――若年技術者不足が叫ばれる中、今年33人もの訓練生が入校された要因は
 設立当時、この学院は集団就職で、最大で947人もの生徒を訓練・育成していたが、ここ10年の間、徐々に少なくなってきた。さらに本学院への予算も削られ、一時は熊本市から、廃校の動きもがあったが、就任後、どうにかして存続できる道がないかを考え、市と協議を重ねた結果「毎年30人の訓練生を確保できるなら存続可能」という所までこぎ着けた。
 そこで、各建設専門工事業の団体長を呼んで役員会を作り、話し合いを重ねていくうちに、学院自体の認知度はまだまだ低いなどの欠点が浮き彫りになってきた。
 学校の作り直しを始めていく上で、まず、本学院の特色を分かってもらうためのパンフレットを作成し、熊本市産業開発求人対策協議会と一丸となって県内の高等学校等に配布して回った。さらに今年度、科目を新たに2科目新設したことにより、今まで以上に多業種の訓練生の受入れる態勢が整った。
――技術者育成において、同学院が一番、モットーとされていることは
 まずは、訓練生の技術・技能の向上を図ることに重点を置いている。次に、社会人としてのマナーを訓練生に教え込んでいる。例えば、人との会話や、つき合い方など、接遇関係の研修も2年間みっちりやっている。
――現在の訓練生に見受けられる特徴は
 将来への展望や目的意識が欠けている傾向が多い。理由として、各学校が就職率を上げることに過剰になり過ぎ、生徒自身の目的を喪失させてしまっているように思える。
 次に親子関係の問題。親世代が甘やかされて育っているため、子供まで甘えた性格になっている。この業界は、昔から徒弟制度が根付いている世界。その縦社会に耐えられなくなり、半年もしないで会社を辞めていく若者が後を絶たない。
――入校生自身、卒業までに変化は
 まず、顔つき、体つきが変わってくる。顔つきが変わると目的意識が明確になってくる。入校当時、挨拶もできない生徒が、次第に自らコミュニケーションを取るようになり、教える側も生徒の方から挨拶されと、嬉しさを感じる。
――2年間訓練することによって企業が得ることは
 最大のメリットは、企業側が資格を持った優秀な技能者を得ること。本学院の特典では、技能検定(国家試験)の2級を受ける際、学科免除になる。また以前は1級を取るのに実務経験が8年かかっていたものも、今では4年で済むようになった。公的な現場になるほど、資格を持った技能者が即戦力として必要になってくる。
 それと、接遇の教育にも力を入れているため、社会人としてのマナーが身についたことで、企業主が喜ばれたということをよく耳にする。
――2007年問題が与える影響は
 反対に、業界にとってメリットになると考えている。5年後くらいに、50代の多くの技能者が引退してしまうことにより、本当の技能の良さというものが改めて見直されてくると思う。その必要性から、少子化の時代に優れた技能を持つ者が、必ず生き残っていくと信じている。
――これからの若い技能者に望むことは
 経営者になるか、技術者でいくか、どちらかの道を選択すること。中途半端では、この業界で生き残ることは難しい。ただ、技術者になれば、一生、飯が食える時代になるだろう。
 それと1日の日当が、普通のサラリーマンの倍とれるようなことを考えろといいたい。それには、同じ仕事をするだけでなく、いろんなアイディアを出して、人と違ったことをやることが必要。それが技能の尊さだと思う。
――今後の学院の運営方針等は
 まず他の訓練校と格差を図り、本学院の特色を生かしていこうと考えている。例えば、各専門業種の青年部を設け、将来に向けて実力のある幹部候補生を育てていきたい。 さらに、高校等の就職指導の先生に集まってもらって、実習風景の見学会を開催しようと考えている。
2006.05.08掲載

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