平成20年度職業能力開発関係厚生労働大臣表彰を受賞した
(有)イチエイ技工 取締役会長 小車 等氏
「若いうちはがむしゃらに資格取得を」
「若いうちは、がむしゃらに資格を取らないかん」。これまで多くの技能者を輩出し、業界の発展に貢献してきた技能検定員歴22年の指導者の言葉は重い。「今回の受賞は、周りの人達や家族のおかげ」と喜びは控えめだが、その眼差しは熱く感じられる。
防水業に飛び込んだのは30代。きっかけは「仕事を手伝わないか」との友人の言葉だった。アルバイトだと高をくくっていたが、正社員として迎えられた。「1週間後には『現場に1人で行ってこい』ですから。今では考えられないことだが、いい経験になった」と振り返る。
その後は、現場での面白さを知り、この仕事の虜になった。人より遅れて入った分、何倍も努力した。その努力の証が技能検定の取得だと信じ、昭和60年に樹脂接着剤注入施工の資格を取った。
「今思うとこれが人生の大きな転機だったかな」。取得した翌年から熊本県でも技能検定が始まり、初代検定員に抜擢された。いきなり習う側から教える側に一転した。
「誰もやったことがないことだったので、検定の進め方や準備の仕方など分からないことばかりだった」。1年目は苦難の連続だったが、そんな中「合格者の喜ぶ姿を見ると苦労も吹き飛んだ」と当時を懐かしむ。
「何年か経つと基本を忘れ、自己流に走ってしまう若手技術者に危機感を抱いている」。現場で教え子の作業を見ると、基本を守っているかどうかはすぐ分かるという。「何においても、基本が大事なのは昔から変わらない。一つ一つの積み重ねが大事」。
そんな小車氏も、今年で技能検定員の引退を示唆。「これからは次世代の技能者が、新しい発想でこの業界を盛り上げていくべき。でも辞めるまでには、次の検定員に今までの培った経験を伝えないと」。
「日本一周の旅が夢」と胸膨らませるが、実現はもう少し先になりそうだ。熊本市在住。65歳。 |