全面実施までに残された時間はあとわずか
電子証明書の普及で経営合理化へ
日本電子認証(株)常務取締役・事業開発部長  河野哲夫


河野哲夫氏

 平成17年4月の熊本市に続き、同年10月には熊本県が電子入札システムの運用を一部開始した。県、市ともに国土交通省が導入しているコアシステムを採用しており、平成20年度からは県、市の発注する工事・コンサルの全案件で電子入札を導入。他市町村に対しても共同運営を呼びかけている。
 このような状況の中、今年4月、コアシステム対応電子認証局の1つである日本電子認証鰍フ電子証明書(ICカード)の累計発行枚数が7万枚(約3万2000企業)を超えた。現在業界内でトップシェアを誇る「AOSign(アオサイン)サービス」を提供する同社の河野哲夫常務に、今後の電子入札の流れや、受注者が対応すべき事項などを聞いた。

−−先ずは御社の設立経緯などを
 建設業界の電子入札への対応を支援するために、建設業保証会社や大手ゼネコン、金融機関等の出資により平成13年12月に設立し、14年11月から営業を開始した。全建や全国建産連を始めとして、200近い業界団体からご推薦を頂いており、お陰で後発組の認証発行会社ではあるが多くの皆さんからご支持をいただいている。

−−全国自治体での電子入札導入の現状は
 都道府県レベルでみると9割程度が導入または導入に向け動き出しており、このうち8割がコアシステムを、残りが独自システムを採用。電子社会という大きな土俵の中で、使う側が混乱せず確実に普及させるためには、システムの標準化という発想は重要な要素であろう。
 熊本県と熊本市の操作方法は、国のコアシステムを知っていれば1枚のカードで違和感なく操作できる。また、共同運営を他市町村にも呼びかけているが、コストを抑える意味でもこれがベストのやり方だと考える。地方自治法に基づいて入札契約を実施しているのだから標準化は必須。「コア」と「コア以外」、「電子」と「紙」が混在していては受注者側の負担は軽減できないのだが。

−−省庁関係の公共調達は全てコアシステムということか
 公共調達は、工事と工事以外(物品)の2つにわかれるが、物品調達は総務省が主導しておりコアシステムとは少し違う。しかし、当社では、事業者が混乱しないよう総務省の物品調達にも当社のICカードが使えるようテストし、既に稼働している。熊本県で物品調達が電子入札になった場合も、同じカードで入札に参加できる。
 1枚のICカードがインターネット社会のいろんなアプリケーションで使うことが出来れば、利便性が増し電子社会の発展に寄与できるのではないか。電子入札以外にも、例えば国税庁のe−Tax(国税電子申告・納税システム)や国交省オンライン申請、法務省の不動産登記など官庁の電子申請にも対応できる。

−−ここまで実績を伸ばしてきた強さは何か
 保証事業者という建設業界の方とは切っても切り離せない基盤の中で設立し、利用者にやさしく丁寧に≠キーワードに展開してきた。フリーダイヤルのヘルプデスクで年間10万件以上の問い合わせに回答するなど、他社に負けないノウハウの蓄積があり、建設業界に一番身近な認証局という努力を続けてきた結果であろうと思っている。
 また、西日本建設業保証の各支店と取り次ぎ契約しており、支店のネットワーク基盤を生かし、説明・啓発活動をして頂いており、非常に心強い。高品質で安心できる電子証明書の提供も、建設業保証会社なくしては出来ない。

−−導入に向けての受注者の準備をわかりやすく
 各自治体の導入スケジュールをしっかりと確認しておく必要がある。例えば今年4月から熊本県では、本庁発注でBランク以上の土木・建築工事や1000万円以上の業務委託などが、熊本市ではAランクの土木・建築に加え、Aランク5000万円以上の電気・管・舗装・造園工事や2000万円以上の業務委託などが電子入札の対象となった。
 さらに、熊本県は10月から本庁だけでなく地域振興局などの全機関において同じ基準で運用を開始する。自社が参加できる入札がいつから対象範囲となるのかを確認し、速やかに準備を進めることが重要。残された時間は少ない。
  次に準備するものは、パソコンとインターネット接続環境、電子認証のICカード。インターネット環境はADSL回線以上の高速回線をお奨めする。パソコンと回線は現在使っているものとは別に、電子入札専用として整備された方がベターだと思う。ICカードは、コアシステム対応認証局が発行するものが必要だ。当社の関連会社の西日本建設業保証が、準備に関わるあらゆる相談に応じているので、地元の皆様には心強いのでは。

−−苦手意識の強い人にアドバイスを
 電子入札と言っても従来の紙入札と仕組みは変わらない。例えば指名競争入札の場合、指名通知書の受領、入札書の提出、落札結果通知書の受領といった一連の流れは同じで、ただ単に電子文書になるということ。ICカードの管理や電子文書の保管・管理に対する社内ルールをきちんとしておくことは必要だが。
 一方で、IT化の影の部分であるリスクに対する認識と事前対応が必要。電子入札に限らずインターネット上での取引で発生する「成りすまし」「盗み見」「改ざん」「事後否認」といった不正行為は後を絶たない。
  しかし、これらのリスクを防止するものが電子認証サービス、つまり当社が提供するAOSignサービスだ。ICカードはネット上で「実印」の役割を果たす。ICカードの中には暗号通信を行うための「秘密鍵」とそれを開く「鍵」が確かに本人のものであることを証明する電子証明書が格納されており、これを使うことで電子データはすべて暗号に置き換えられてネット上を行き来することになり、発信者の本人性や作成内容の原本性が確保される。

−−パソコンの環境設定は簡単か
 神経質になる必要はない。最初に、認証局が提供する電子入札用ソフトをパソコンにインストールするが、当社では誰でも簡単に作業ができるマニュアルを提供している。
 次に、発注機関のアドレスを登録し、インターネット接続を可能にするための「Javaポリシー」を設定するが、これも当社では設定ツールをホームページにて提供しており、ご好評いただいている。これでシステムへの接続が可能となり、「熊本県・熊本市電子入札システム」のマニュアルに従い、利用者登録を行えば、いつ指名通知が来ても対応できる。

−−今後の電子化の流れはどのように
 1月に発表された新建設CALS/ECアクションプログラムによると、情報の共有とデータの再利用化が前面に挙げられ、公共調達での一連の作業工程をより効率化することが進められる。電子納品の標準化も含め、これまでの点を線で結び合理的に管理するという本来の方向性が示された。
 また、国は電子契約システムの設計段階に入っているし、e−Japan戦略に続き「IT新改革戦略」を打ち出している。国の方針がIT化、情報化を更に促進させようとしているのは間違いない。発注者も業界も本当に良かったなと思えるまでにはあと数年はかかるとみているが、電子証明書が普及し、ソフトの操作性が向上すれば、会社経営においても経費節減や事業の合理化が確実に進むだろう。

−−そのなかで御社の事業展開は
 西日本建設業保証では、保証事業法に基づき、大手から中小零細まで同じ仕様で公正な保証証書の発行を50年間続け、全国で同じサービスを展開するという公共性を重んじてきた。日本電子認証もこの思想を継承し、全国同じコスト・仕様で、あらゆるシステムで電子証明書が使えるよう、電子認証サービスをとおして建設産業界の発展に寄与していきたい。
2006.06.19掲載

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