「良好な景観形成推進のための調査活動団体」に選ばれた
川尻六工匠の責任者   古川 保 氏(すまい塾古川設計室)




 熊本市の南部に位置する川尻地区。この界隈は、日本の古き良き時代を彷彿させる街並みがある。仕掛け人は、日本の伝統建築を用いて独自の手法で川尻のまちづくりを手掛けている「川尻六工匠」。この匠の集団は、このほどハウジングアンドコミュニティ財団から「良好な景観形成推進のための調査活動団体」に選定された。
 景観法が制定され、景観形成が重要な課題として位置づけられる中、「川尻六工匠」の責任者で建築士の古川保氏(すまい塾古川設計室(有)代表)に調査協力団体としての活動内容や取り組みなどを聞いてみた。

−設立のきっかけは
 今から10年前、建築士会の全国大会が熊本で開催された時、伝統的な街並み、工芸などの歴史はあるが、衰退しつつある川尻を蘇らせようと取り上げたのがはじまり。
 街並みは個≠フ集まり。個々の住宅の延長がまちを造っている。実際、歴史の息づいている川尻のまちを造っていくのは施主ではなく施工に直接携わる工務店や大工。施主を口説くよりも材料の善し悪しが分かる職人を口説く方が、まちなみを保持・再生するのに早いと思い、地元の工務店、建具店、板金店、材木店などの専門職を集め、自分達で資金を出し合い設立した。
−地元の業者で結成するメリットとは
地域に密着し、すぐにコミュニケーションが取れることだ。しかし、「建設業はクレーム産業」と言われ、地元の業者は近場の仕事を嫌がる。ちょっとした噂が善しにつけ、悪しきにつけ口コミで広がるからだ。川尻の業者もそれを嫌い時間や経費をかけ遠方にまで出かけていた。現在は、地元で仕事をするようになり時間や経費が省けた分、収入が増え、下手な仕事ができなくなった分、技術が上がった。
−川尻六工匠ならではのユニークな取り組みがあると聞いているが
 当たり前のことだが、日本の風土には日本建築が合っている。伝統を継承していくために国産の材料にこだわり、六工匠では、下駄箱から台所、風呂場など、普通は既製品を使用する所を職人が手で作っている。時間をかければ人手が必要になり、若手職人の育成にもつながる。材料が不足しているならば量産も仕方ないが、今は「仕事が無く人が余っている」と言っている状況で既製品に頼るのはどうか。
−景観が崩れていく原因はどこにあるのか
 バブル以前は、職人が年間2棟ペースで家を建てていたが、現在では6棟ペースになった。施主が簡単にカタログから部材を選べるシステムになり、施工もマニュアル化され、合理化住宅になってきたからだ。出来上がった家はリカちゃん人形の家そのもの。施主がおかしいと思っても選んだのは自分なので誰にも文句が言えない状況だ。こういったことは、施工側が責任転嫁しているようにしか思えない。杉や檜の良さを知らない工務店や住宅メーカーが、外材を「安くていいもの」と言って施主に勧めるが、国産の木材と値段を比較してもあまり変わらない。技術を磨き本質を見抜くものがいなくなった。
−川尻地区の住民は、景観形成の意識も高いようだが
 日本建築の素晴らしさや熊本産の木の良さを個人の感性に訴えるためには、実際に木材などに触れさせることが効果的だ。
 昨年は、現場で出た廃材やかんなくずを使って子供から大人までが楽しめるイベントを行った。こうした取り組みを通じ、地域住民とのコミュニケーションを図っていることが成果として表れているようだ。
−調査協力団体としてどのような取り組みを
 住民に対し行った景観アンケート調査結果の整理をしたい。意識の啓蒙活動として、これまで、住民に様々なイベントを通し、景観意識の高揚を図っており、今後も「日本人の感性」を伝えていきたいと思っている。来年2月9日から13日までの5日間、熊本市伝統工芸館でイベントを開催する。杉や檜を使っての木工教室や土壁塗り・漆喰の実演など多様な催しとなるだろう。これらの活動をベースに建築協定書の素案を作成する予定だ。
−これからの活動は
 洋風化が進む中、川尻だけは日本の伝統建築が建ち並ぶ街並みでありたいと思っている。どこにでもあるような○○風≠フまちではなく、オンリーワンが集結した本物のまちづくりを目指したい。日本建築の良さは、建てる時から壊す時のことまでを想定し、次へ再生≠ナきるという融通性にある。そのため柱や梁は太く頑丈に出来ている。その良さを継承していくためにも現存する建物の保全維持に努め、施主や仲間との信頼を築きたい。
2004.12.9掲載

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